最近は国際化や構造改革などで、国の規格や基準改正の動きが活発である。

只、方向が正しいと分っていても、各業界や団体の利害が絡めば、一筋縄で行かないのが常である。2・3年で交代を繰り返す各省庁の改正担当官にとっても、内容と利害の見極めには最も苦労するところである。

大阪の会社勤務時代、そろそろ帰り支度を始めた夜7時過ぎ、東京・霞ヶ関のT省斎木担当官(仮名)から電話を頂いた。受話器をとると直ぐ、斎木担当官独特の、早口で丸(。)も句読点(、)も無く、口を差し挟むことも出来ない話が30分以上続いた。

説明が詳しすぎて理解しにくかったが、どうも、“明日午後、T省の諮問委員会で、私が所属する基準検討委員会からの提案を中止せよ。先に委員長に伝えようとしたが、連絡がとれなかった。”ということらしい。

いくら提案文書をまとめた幹事といっても、審議が完了した文書を、委員長の了解なしに、一存で提案中止する訳にはいかない。申し出は、丁重にお断りした。その後も、担当官の電話説明は続いた。次第に熱くなってくるのが分ったが、私としても如何ともし難く、8時前に電話を切った。

放って置くわけにも行かない。善後策の相談のため、首都圏在住の柏崎委員長(仮名)や関係者のT社高林さん(仮名)、M社河島さん(仮名)などに相次いで電話した。しかし、夜遅いこともあって、誰にもつながらなかった。確か、河島さんには、昨日、斎木担当官へ文書を事前説明してくれる様お願してあったはずである。

翌朝一番、河島さんから電話があった。“斎木担当官から連絡があった。不快感を表しており、とても文書を提案できる状態では無い。関係者と調整して、直ぐ提案中止を決めたい。”と言う。河島さんの調整にお礼を言うとともに、私としても提案中止に賛成した。

後で分ったことである。河島さんの訪問時、生憎、斎木担当官は不在だった。代わりの担当官に説明した。“又聞き”した斎木担当官は、不明箇所を肝心の河島さんに再確認せずに、親しいT財団法人佐伯氏(仮名)にヒアリングした。結果的に、これが誤解の始まりだった。

T財団法人は、この提案は経営上かなり不利と考えていた。佐伯氏も、ここぞとばかり、文書と提案団体(E工業会)の問題点を強調したらしい。基準検討委員会の文書審議にも参加した佐伯氏なので、後から問い質すと、“聞かれたことに、素直に応えただけ”と、涼しい顔で言うだけである。

ヒアリングの後、斎木担当官は、直ぐに行動に移ったのである。その後も、事有る毎に、“斎木担当官へ意図的に誤った情報を伝えようとした”などとE工業会への非難を繰り返した。

事前説明で、行き違いは有ったものの、国際化の流れに沿った正しい提案である。

E工業会としても、攻められてばかりいる訳にはいかない。過去の経緯や内容を熟知している高林さんを中心に、反論作戦を練った。

斎木担当官と学識経験者も交えた検討会を何度も重ねた。その結果、1年の月日を要したが、ようやく斎木担当官も提案文書の正しさを理解した。T財団法人の主張は退けられ、提案文書も無事基準化された。

考えて見れば、誤解を解くのに1年も要するほど、T財団法人からT省への最初の説明が印象的だったのである。霞ヶ関の電話で始ったこの1件も、終わって見れば、最初の印象付けの大切さと怖さを、改めて知らされた事件だった。







”電話のエチケット”

お互い長電話には、気を付けましょう。




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