演劇・放浪記


 森光子の当たり役 「放浪記」 の大阪公演を、フェステバルホールに観に行ってきた。
 
 今年、米寿(八十八歳)を迎えていながら、驚異的な若さを保って活躍する森光子の演技を一度見てみたいと思ったからである。


 演劇・放浪記は、林芙美子が男性遍歴を重ねながら辿った清貧と放浪の半生を小説・放浪記として出版した後、流行作家となって栄光を手にする迄の生き方を、菊田一夫が劇化したものである。

                   
         (演劇・放浪記のパンフレット表紙)         (パンフレット裏表紙)


第一幕 : 大正12年秋 本郷の下宿大和館(林芙美子20歳)

新劇俳優伊達晴彦と本郷の下宿で同棲しながら作家を目指していた頃の様子。

晴彦が下宿に新しい愛人・女優の日夏京子を連れ込んだ場面を描いている。

   (劇中では、林芙美子と菊田一夫以外は仮名となっていた)

第二幕 : 昭和元年冬 カフェー寿楽(林芙美子23歳)

芙美子がカフェー寿楽で女給として働いていた頃の様子。

 菊田一夫、日夏京子など作家を目指す仲間達が客としてカフェー寿楽に集まる。

第三幕 : 昭和2年春 尾道の実家(林芙美子24歳)

芙美子が東京での生活に疲れ果て、尾道の実家に帰った時の様子。

幼い頃 行商に連れて行かれた芙美子が、同じ境遇の行商の子供を家に上げて食事をさせる場面、尾道の女学校時代の初恋の人に再会する場面などを描いている。

第四幕 : 昭和2年秋 世田谷の家 (林芙美子24歳)

暴力を振るう結核のアナキスト詩人福地貢と世田谷の家で同棲する様子。

     昭和2年冬 渋谷の木賃宿(林芙美子24歳)

福地と喧嘩別れして渋谷の木賃宿で作家活動を続け、放浪記を完成させる様子。

     昭和5年春 南天堂二階・出版記念会(林芙美子27歳)

 「放浪記」の出版記念パーティーに文壇の大御所や昔の詩の同人、木賃宿の仲間を招待し、芙美子が栄光に輝く様子。

第五幕 : 昭和24年秋 晩年・落合の家 (林芙美子45歳)

清貧と放浪の生活を経て、女流文壇の流行作家となり、母を呼び寄せて東京落合の屋敷で多忙な文筆生活を送っている様子。(林芙美子は47歳で急逝した)

       
          (落合の屋敷で、実母キクと林芙美子)

作家として名を成した菊田一夫、女優・作家を経て今は実業家の妻となった日夏京子など放浪の頃の友人達が尋ねてくる。

仕事に追われ、疲れ果てて机で寝入ってしまう芙美子に対して、日夏京子が

 「お芙美、あんた幸せじゃないんだね」  と言って去っていくシーンが最後である。



演劇・放浪記は、初演が昭和36年(1961年) 森光子が41歳の時であり、それから47年間 森光子が一人で主役を演じ続けている。

                
         (初演の森光子 41歳)             (今年の森光子 88歳)


 今回観にいった大阪公演の千穐楽は1971回目とのことだったが、出演者の演技も円熟しており、4時間の公演の間 観客を飽きさせない素晴しいものであった。


しかし、一つだけ気になることがあった。

いつまでも若さを保っている森光子であるが、テレビなどで拝見すると、この一年急に老いが目立ってきたように思えるのである。

今回の演劇・放浪記でも、舞台上での台詞に鮮明さが欠けてきており、歩く姿にも老いが感じられた。
 演劇・放浪記の売りとなっていた“でんぐり返し”の演技を楽しみにしていたのであるが、残念ながら今回から削除されていた。

これからも2000回公演に向けて演じ続けていくであろうが、流石の森光子も歳には勝てないように思えた。

 (H20.11.4)



            トップページへ     INDEXページへ